

昇給交渉って、どう伝えれば経営側に届くんだろう?
この記事は、無理に転職を勧めるものではありません。
理学療法士が給料や働き方に不満を感じたとき、選択肢は転職だけではないからです。
異動・業務調整・昇給交渉によって、今の職場に残りながら待遇を改善できる可能性があります。
私は現在、経営管理部長として、スタッフの昇給や待遇改善に関する稟議を見る立場にいます。
その中で感じるのは、経営側が動きやすい交渉と、動きにくい交渉には、はっきりとした違いがあるということです。
この記事では、理学療法士が現職で給料や待遇を上げるための交渉方法を、承認する側の視点から解説します。
交渉しても職場が動かなかった場合に、次に何をすべきかも紹介します。

- 理学療法士として臨床経験15年以上
- 元リハ部長、現経営管理部長
- 多くの採用・昇進の評価をする側を経験
- 整形クリニック複数の経営に関与
- 自身も昇進・キャリアアップで年収アップを実現
- 論文を年間200本以上チェックし、正確な情報を発信
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この記事で分かること
- 転職前に検討したい3つの選択肢
- 経営側が判断しやすい昇給交渉の方法
- 給与交渉で準備する3つの材料
- 交渉が通りやすいタイミング
- 「辞める」を交渉材料にしてはいけない理由
- 自分の市場価値を調べる方法
転職する前に検討したい3つの選択肢

「今の職場がつらいから転職する」
そう考える前に、まずは次の3つを切り分けてみてください。
①異動・配置転換を相談する
人間関係や担当業務に悩んでいる場合は、同じ法人内で環境を変えられる可能性があります。
例えば、次のような異動です。
- 外来から病棟へ異動する
- 病棟から訪問リハビリへ移る
- 臨床業務と教育業務の割合を見直す
- 別施設や別部署への配置転換を相談する
- 管理業務や採用業務に関わる
法人そのものに大きな不満がなければ、転職せずに働く環境だけを変えるという方法もあります。
②業務内容や仕事量を調整する
つらさの原因が仕事量にある場合は、給与交渉より先に業務内容を見直したほうがよいこともあります。
具体的には、次のような相談です。
- 担当患者数を見直す
- 委員会業務を整理する
- 書類作成の流れを改善する
- 新人教育の担当人数を調整する
- 残業の原因になっている業務を洗い出す
- 特定のスタッフに集中している仕事を分担する
「忙しいです」とだけ伝えるのではなく、どの業務にどれくらい時間がかかっているのかを整理すると、上司も判断しやすくなります。
③給与や勤務条件を交渉する
仕事内容や役割に対して給与が見合っていないと感じる場合は、待遇交渉も選択肢になります。
交渉できるのは、基本給だけではありません。
- 基本給
- 役職手当
- 資格手当
- 職務手当
- 教育担当手当
- 住宅手当
- 勤務日数
- 勤務時間
- 休日
- 担当業務
- 役職や職位
施設にとって、既存スタッフの退職は小さな問題ではありません。
採用活動だけでなく、教育や引き継ぎ、独り立ちまでに多くの時間と費用がかかります。
そのため、施設側にも「できる限り残ってもらいたい」という動機があります。
ただし、希望を伝えるだけで昇給が決まるわけではありません。
経営側が判断できる材料を準備する必要があります。
経営側が動く昇給交渉とは?
給与交渉で、よくある伝え方がこちらです。
頑張っているので、給料を上げてほしいです。
気持ちはよく分かります。
しかし、稟議を承認する側から見ると、この伝え方だけでは判断ができません。
「頑張っている」という言葉は本人の主観であり、上司が院長や理事長に説明するための客観的な材料がないからです。
経営側が必要としているのは、次の問いへの答えです。
「この人の待遇を改善することが、施設にとってどのようなメリットになるのか」
給与交渉では、感情ではなく、数字・事実・今後の役割を使って伝えることが重要です。
昇給交渉で準備したい3つの材料

経営側が判断しやすい交渉には、共通する3つの材料があります。
①自分の貢献を数字で見えるようにする
最初に整理したいのが、これまでの実績です。
ただし、単に「頑張ったこと」を並べるだけでは不十分です。
できるだけ数字や具体的な変化に置き換えます。
伝え方の例
これまで新人3名の教育を担当し、全員が予定期間内に独り立ちしました。
月平均のリハビリ実施単位を維持しながら、委員会業務と新人教育を担当しました。
キャンセル対策を見直した結果、無断キャンセルが減少しました。
業務マニュアルを作成し、新人への説明時間を短縮しました。
患者アンケートで、接遇に関する評価を継続して得ています。
理学療法士の貢献は、リハビリ単位数だけではありません。
- 新人教育
- 学生指導
- マニュアル作成
- 委員会活動
- 業務改善
- キャンセル対策
- 患者満足度
- 他部署との連携
- 施設基準の維持
- 新規事業への関与
こうした仕事も、施設にとって重要な貢献です。
日頃から記録しておかないと、評価面談のときに思い出せません。
月に1回程度、自分が担当した仕事や改善したことをメモしておくと、交渉材料として使いやすくなります。
②昇給と今後の役割をセットで提案する
過去の実績だけを伝えると、経営側から次のように判断されることがあります。
それは現在の給与に含まれている仕事ではないか。
そこで重要になるのが、これから何をするのかという提案です。
提案の例
来年度は新人教育の仕組みを整備し、教育期間の短縮に取り組みたいと考えています。
今後は〇〇分野の患者対応を強化し、院内での専門性を高めたいと考えています。
キャンセル率の改善を担当し、予約枠を有効に使える仕組みを作りたいです。
訪問リハビリの新規利用者を増やすため、関係機関への案内を担当したいと考えています。
現在の業務に加えて教育担当を正式に担う場合は、役割に応じた手当をご検討いただきたいです。
経営側は、過去へのご褒美としての昇給よりも、未来の成果につながる投資として説明できる昇給のほうが承認しやすくなります。
「給料を上げてください」ではなく、次のようにセットで伝えましょう。
新しい役割を担う
+
その役割に応じた待遇を相談する
この構造にすると、単なるお願いではなく、業務上の提案になります。
③同じ経験や役割の給与相場を調べる
3つ目は、自分の待遇と市場相場を比較することです。
例えば、次のような条件が近い求人を複数確認します。
- 理学療法士としての経験年数
- 病院・クリニック・介護施設などの勤務先
- 管理職または一般職
- 新人教育や主任業務の有無
- 勤務地域
- 休日数
- 賞与
- 各種手当
- 想定年収
求人を1件だけ見て判断するのではなく、複数の求人を比較してください。
基本給が高くても賞与が少ない求人や、年収が高くても休日が少ない求人もあります。
そのため、月給だけではなく、年収・休日・業務内容を含めて比較することが大切です。
交渉での伝え方
同じ地域で、同程度の経験年数と教育業務を求める求人を複数確認したところ、現在の待遇と差があることが分かりました。
今後も現在の職場で教育業務を担いたいと考えています。役割と市場相場を踏まえて、手当について相談させていただけないでしょうか。
これは「他の職場に行きます」という脅しではありません。
承認者が上層部へ説明するための、客観的な材料です。
昇給交渉の具体的な伝え方
ここまでの3点を、実際の会話にすると次のようになります。
今後の役割と待遇について、一度ご相談したいことがあります。
現在は通常の臨床業務に加えて、新人教育と業務マニュアルの整備を担当しています。新人が独り立ちするまでの流れも整理できてきました。
来年度は教育担当として、研修内容や評価方法まで整備したいと考えています。
同じ地域で教育業務を担当する理学療法士の求人も確認しましたが、現在の待遇とは差があるようです。
今後の役割を踏まえて、基本給または職務手当について検討していただくことは可能でしょうか。
ポイントは、最初から金額だけを要求しないことです。
まずは、
- 現在の役割
- これまでの実績
- 今後の提案
- 市場相場
- 希望する待遇

の順番で伝えます。
昇給交渉が通りやすいタイミング
給与交渉は、内容だけでなく、切り出す時期も重要です。
同じ提案でも、タイミングによって結果が変わります。
人事評価や査定が確定する前
評価や昇給額が決まった後に相談しても、すぐには変更できないことがあります。
できれば、人事評価面談や査定の前に相談しましょう。
評価面談は、単に上司から評価を聞く場ではありません。
自分の実績と今後の希望を伝える場でもあります。
次年度の予算が決まる前
施設では、次年度の人件費や採用費を事前に決めていることがあります。
予算が確定した後よりも、編成前のほうが待遇改善を組み込みやすくなります。
職場の年度サイクルが分からない場合は、上司に次のように聞いてみましょう。
来年度の役割について相談したいのですが、いつ頃お話しするのがよいでしょうか。
役割や責任が増える前
主任や教育担当、新規事業の担当を任されるときも、相談しやすいタイミングです。
大切なのは、役割をすべて引き受けてからではなく、正式に引き受ける前に待遇を確認することです。
伝え方の例
教育担当を正式に担う場合、業務範囲と評価方法、手当についても確認させていただけますか。
役割だけが増え、待遇が変わらない状態を防ぎやすくなります。
欠員や人員配置の変更があったとき
退職者が出た後は、残るスタッフの役割が増える可能性があります。
ただし、職場が混乱している最中に、いきなり昇給だけを求めるのはおすすめしません。
まずは今後の体制を確認したうえで、追加業務が継続する場合に相談します。
今後、退職者が担当していた教育業務を継続して担う場合、役割と待遇について改めて相談させていただけないでしょうか。
追加業務が一時的なものなのか、今後も続くのかを確認することが大切です。
給与交渉を避けたほうがよいタイミング

次のような時期は、話を聞いてもらいにくい可能性があります。
- 決算後に大きな赤字が判明した直後
- 大きなトラブルが発生している最中
- 業務が極端に混雑している時間帯
- 上司が退職対応や監査対応に追われている時期
- 自分自身の勤務態度について注意を受けた直後
給与交渉は、立ち話で済ませる内容ではありません。
事前に時間を取ってもらい、落ち着いて話せる場を作りましょう。
「昇給がないなら辞めます」は交渉カードにしない

給与交渉で避けてほしいのが、辞めるつもりがないのに退職を持ち出すことです。
昇給してもらえないなら辞めます。
この言葉によって、一時的に待遇が変わるケースはあるかもしれません。
しかし、組織によっては、その後に「退職する可能性が高い人」と見られることがあります。
その結果、
- 長期的なプロジェクトを任せにくい
- 将来の人員配置を別に考えられる
- 昇進候補として慎重に判断される
- 後任者の採用を検討される
といったことが起こる可能性があります。
一度「辞める」と伝えると、以前とまったく同じ信頼関係に戻すのは簡単ではありません。
本当に退職の意思が固まっているなら、それは給与交渉ではなく退職の申し出です。
まだ残りたい気持ちがあるなら、退職を持ち出すのではなく、施設に残る前提で、今後の役割と待遇を相談することが大切です。
交渉しても待遇が変わらない場合はどうする?

実績を整理し、今後の役割を提案し、適切なタイミングで相談した。
それでも職場が動かないことはあります。
その場合は、理由を確認しましょう。
確認したいこと
- 今回はなぜ難しいのか
- 実績が不足しているのか
- 予算上の問題なのか
- 施設に昇給制度がないのか
- どの条件を満たせば再検討されるのか
- 次に相談できる時期はいつか
聞き方の例
今回の待遇変更が難しい理由を、今後の参考として教えていただけますか。
どのような実績や役割があれば、改めて検討していただけるでしょうか。
次回はいつ頃、相談させていただくのがよいでしょうか。
「今は難しい」のか、「今後も変わらない」のかでは意味が違います。
条件や時期を示してもらえるなら、現職で取り組む余地があります。
一方で、明確な評価基準がなく、何をしても待遇が変わらない場合は、働く場所そのものを見直す必要があるかもしれません。
転職する前に自分の市場価値を確認する
現職で交渉しても状況が変わらない場合は、転職市場で自分の価値を確認してみましょう。
具体的には、次の方法があります。
- 求人サイトで同じ地域の求人を見る
- ハローワークの求人を確認する
- 病院やクリニックの採用ページを見る
- 同年代の理学療法士に話を聞く
- 転職エージェントに相談する
ここで大切なのは、求人を見ることと転職を決めることは別だという点です。
転職エージェントに登録したからといって、必ず転職する必要はありません。
自分の経験や役割に対して、どのような求人があり、どの程度の条件が提示されるのかを確認するだけでも意味があります。
これは、転職の決断というよりも、自分の市場価値を測る作業です。
市場価値を確認する2つのメリット
①現職での交渉材料になる
実際の求人を確認すると、現在の待遇が相場と比べて高いのか、低いのかを判断できます。
ただし、求人票に書かれている上限金額だけを使うのは避けましょう。
経験や役割によって、実際に提示される金額は変わるからです。
複数の求人や転職エージェントから得た情報を比較すると、より現実的な相場が分かります。
②残るか転職するかの判断軸ができる
市場価値を調べた結果、他の職場より現在の待遇がよいと分かることもあります。
一方で、同じ仕事や経験でも、よりよい条件の求人が見つかることもあります。
情報を確認したうえで現職に残るなら、それは「他を知らないから残る」のではありません。
比較したうえで、今の職場を選ぶという前向きな判断になります。
現職での交渉と、転職市場の確認は、並行して進めても問題ありません。
感情だけで退職を決めず、情報を集めながら判断することが大切です。
理学療法士の給与交渉でよくある質問
給料の交渉をすると印象が悪くなりませんか?
伝え方によります。
「給料を上げてほしい」と要求するだけでは、よい印象を持たれない可能性があります。
一方で、実績や今後の役割を整理したうえで相談すれば、仕事やキャリアを真剣に考えていることが伝わります。
経営側から見ても、数字と将来の提案を使って話せるスタッフは、組織運営を理解できる人材として評価しやすくなります。
希望する金額は伝えてもよいですか?
伝えても構いません。
ただし、根拠のない金額を提示するのは避けましょう。
市場相場や追加される役割を確認し、基本給の変更が難しい場合は、役職手当や職務手当なども含めて相談します。
教育担当を正式に担う場合、月額〇円程度の職務手当をご検討いただくことは可能でしょうか。
このように、役割と金額をセットで伝えると判断されやすくなります。
求人票を上司に見せてもよいですか?
見せること自体は可能ですが、見せ方には注意が必要です。
求人票を突きつけて、
他ではこれだけもらえます。
と伝えると、脅しのように受け取られることがあります。
求人票は「退職をちらつかせる材料」ではなく、市場相場を説明する参考資料として使いましょう。
交渉しても上がらなければ転職すべきですか?
すぐに転職する必要はありません。
まずは、待遇変更が難しい理由と、今後見直される可能性を確認してください。
- 達成条件が明確
- 再検討の時期が決まっている
- 上司が改善に向けて動いている
このような場合は、現職で取り組む選択肢もあります。
一方で、評価基準がなく、役割だけが増え、何年働いても待遇が変わらない場合は、転職を含めて検討する時期かもしれません。
まとめ|転職する前に、現職でできることを整理しよう
理学療法士が給料や働き方に悩んだとき、選択肢は転職だけではありません。
転職前に、次の3つを検討してみてください。
- 異動・配置転換
- 業務内容や仕事量の調整
- 給与・手当・勤務条件の交渉
昇給交渉では、次の3点を準備します。
- これまでの貢献を数字や事実で示す
- 今後担う役割と待遇をセットで提案する
- 同じ地域や役割の市場相場を調べる
交渉する時期も重要です。
人事評価や予算編成の前、役割が増える前など、経営側が検討しやすいタイミングを選びましょう。
そして、辞めるつもりがないのに「昇給しないなら辞める」と伝えるのはおすすめしません。
現職に残る前提で、施設にとってのメリットを示しながら相談することが、信頼を損なわずに交渉する方法です。
数字と今後の提案を準備して相談に来るスタッフを、経営側は面倒だとは思いません。
むしろ、自分の仕事を客観的に捉え、経営の視点でも話せる人材として評価しやすくなります。
現職でできることをやり切り、それでも状況が変わらなければ、転職市場で自分の価値を確認すればよいのです。
その順番で進めれば、現職に残る場合も、転職する場合も、納得できる選択に近づけます。
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